FirstLogic meets Astrobiology

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日本初、アストロバイオロジー寄附プログラム設立

東京工業大学地球生命研究所(ELSI)の科学者たちは、研究機関向けに数多くの講演を行う一方で、一般向けにも時折講演を行っている。しかし、不動産投資ポータルサイトを運営する「ファーストロジック」の若い社員を前に、藤島皓介特任准教授が行ったような講演は、これまでの発表とは一風変わっていた。 大勢の出席者から好評をもって迎えられた今回の講演。それは藤島氏とファーストロジックが日本初のアストロバイオロジー寄附プログラムを発足した直後の最初の取り組みだ。藤島氏はELSIで生命の起源に関連した原始的な高分子の役割に関する研究を行いながら学生や一般市民に向けてアストロバイオロジー(宇宙生物学)に関する啓蒙、教育活動を積極的に行なっている。ファーストロジックは、藤島氏のこういった活動を2019年4月から2年間支援することとなった。

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講演後、出席したファーストロジック社員のひとりが考案した「宇宙生物学」を表すサインを作る藤島皓介特任准教授。(Credit: Nerissa Escanlar)

アストロバイオロジーは人々に新しい視点を与え、長期的な視野で社会に貢献する

「宇宙生物学とは、人類の未来に直接関わる科学だと考えています。それは誰しもが抱いたことのある、けれど大人になるにつれて失ってしまう知的興奮と純粋な好奇心を満たしてくれるものです」と語る藤島。かつて研究員として、NASAエイムズ研究センターに勤務した経験がある。今回の寄附プログラムの支援を決定したのは、ファーストロジックの坂口直大代表取締役社長。創業者である同氏は、地球上に生命が誕生した理由について長きにわたり関心を抱いてきた。幼い頃、皮肉にも祖父の死をきっかけとして芽生えたと言う。坂口氏が14年前にファーストロジック社を設立して以来、同社は大きな成長を成し遂げ、現在は数十人の社員を抱える上場企業へと成長し、人類にとって最も重要な謎に取り組みたいと言う長年の願いを財政面からサポートするまでになった。 坂口氏は、サポートするにふさわしい研究機関と科学者を選び出すまでに数年間を要したと話す。そのうち、基準を満たしたのが藤島氏とELSIだった。坂口氏は「重要なのは、組織として研究が行われているということでした。ほかの多くの大学や研究機関は、研究者や教授が個人として研究を行っており、その研究はさほど長くは続かないだろうと思ったのです」とした上で、次のように続けた。「一方ELSIでは、さまざまな分野から集まった人々が組織として研究を行っていました。私には、それが最も効率的な方法だと思えたのです。また資金面で難を抱えている分野に寄付した方が、潤沢な資金を有する分野に寄付するよりもいいだろうとも考えました。そこで、生命の起源に関する研究者に資金を提供したいと考えたのです」ELSIには国内外の研究者が多数所属し、地球の成り立ちと生命の起源を探っている。そこでは理論やコンピューター解析、そして実験とさまざまな手法を駆使して、科学分野を横断しながら有機的な研究の取り組みが行われている。それこそがELSIの最大の魅力かもしれない。

「行く末に待っているのが死ならば、なぜ私たちは生まれてくるのか?長年にわたり哲学や心理学、文献にその回答を求めてきたが、最終的には科学、特に生命の起源を探る科学にその答えを求めた」 – 坂口 直大 (株式会社ファーストロジック 創業者)

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系外惑星に関する話をする藤島特任准教授 (Credit: Nerissa Escanlar)

ファーストロジックの目標

ファーストロジックでは定期的にセミナーを実施し、そこでは主にビジネスとテクノロジーに関するテーマを扱っている。これは、不動産投資業界に関する情報と知識を人々に提供し、関心を引きつけようとしている会社にとって当然である。また同社の運営するポータルサイト「楽待」は、不動産投資に関する情報ウェブサイトである。同社では投資用不動産のリストを同サイトに掲載するとともに、市況に関する情報や不動産投資に関するノウハウを伝える「楽待新聞」も運営している。坂口氏は、ファーストロジックを創設した頃の不動産業界を「目もあてられないような状態にあった」と振り返る。そこで目指したのは、不動産投資市場の公平性を高めることだった。 坂口氏は「現在の株式市場のように、大学生や主婦でも安心して不動産投資を行うことができる市場にしたいと考えています。当社が公平な不動産投資市場を構築することにより、社会の発展に貢献できればと願っています」と語る。このような同社の目標を踏まえると、アストロバイオロジーとの繋がりはなかなか見えてこないような気もする。藤島も最初は「社員の日常の業務とアストロバイオロジーの内容が離れすぎているために、興味を持って聞いてもらえるか半信半疑でした」と話している。だが坂口氏と同じく、社員たちも同分野への関心を示してくれた。

講義に耳を傾けるファーストロジック社員

宇宙生物学に関する藤島特任准教授の講義に耳を傾けるファーストロジック社員 (Credit: Nerissa Escanlar)

生命の起源のようなビッグサイエンスが、一般市民の知的好奇心を掻き立てる

社員への講演の冒頭、藤島はサイエンスの本質として世界の仕組みを説明できる基本原理を解明することで"真実を探求する"ことにあると述べた。そして地球外生命探査や地球やそのほかの天体で生命が誕生する可能性など、アストロバイオロジーが抱える大きなテーマの話に触れ、最後に自身の研究に関する話をした。生命の起源に関する話に関連して、社員からは「生命とは何か?」という質問があった。 私達が知っている生命は「地球生命」というくくりでは1種類であることや、そもそも「生命」の定義すら様々であること、一方で生命の特徴を示す要素についてはコンセンサスが得られていることも重要だ。例えば生命は周囲の環境から物質や光、各種イオンの濃度勾配を利用して様々な形で生命が利用可能なエネルギーを取得し、非平衡状態を維持する構造を持ち、系全体が進化する能力を備えた化学システムであるといった点である。ただその共通認識ですらも我々が知る生命に大きく影響を受けていることは否めない。藤島は講演の途中、「緩歩動物」と呼ばれる生物について紹介した。この生物は極めて小さく、風変わりで驚異に満ちた生命体であり「クマムシ」と呼ばれることもある。この小さな無脊椎動物は超低温や超高温、大量の放射線、極めて強い酸・アルカリ環境にも耐えることができる。また水分がなくても休眠状態に入ることにより、数年、あるいは数十年にわたって生き延びることができる。 藤島は「クマムシの代謝が停止すると、いわば物質の塊へと変化します。そしてその状態を何年も維持した後でも水分が戻れば"生命活動"を取り戻すことができるのです」と説明した。つまり、クマムシが伝える生命の本質に関連したメッセージとして、時間経過で観測できる「生命活動」を維持した「生きている」状態、活動が停止しているが内部の非平衡状態は維持されている「休眠」状態、そして非平衡状態が維持できなくなった「死」の状態、など生命がとりうる様々な状態を考えさせられる。

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活動状態のクマムシと休眠状態のクマムシ。(Credit: Eye of Science/Getty Images)

「活動状態」とは、生命体の内部において活発なプロセスが連続的に生じている状態を指す。一方、生命とは情報を保存できるシステム(この場合には生物の生命活動を可能にする化学構造)を指す。クマムシには、実質的に「生活状態」にあるとは言えない状態が長期間続いている間も、上記のシステムが組み込まれているのである。

講演後、社員たちからは次々に質問が投げかけられた。生命の起源のようなビッグサイエンスは普段触れる機会が少ないが、自分達に直結する"大いなる問題"であるからこそ、彼らの知的好奇心をかきたてることができたのかもしれない。今回の機会は、坂口氏がアストロバイオロジー寄附プログラムにまさに期待していた「社員がアストロバイオロジーに触れることで、日々の仕事に取り組む際も、自由な発想で考え、長期目線で深く考えるきっかけとなる」講演となった。

原文: Marc Kaufman 翻訳: ELSI PR Team 編集: 藤島皓介

「生命の起源」などのビッグサイエンスを通じて、サイエンスの本質である"世界の仕組みを説明できる基本原理を明らかにする"という探求プロセスにぜひ触れて欲しい。– 藤島 皓介 (ファーストロジック・アストロバイオロジー寄附プログラム特任准教授)